北大阪商工会議所 会員紹介
2026.09.11更新
デジタル時代に「アナログ」を貫く。
本と人をつなぎ、縁を深めるまちの本屋

児童書から小説、参考書、趣味の雑誌まで、幅広い本が並ぶ枚方市駅前の書店「野村呼文堂」。雑誌のコーナーに立ち寄れば、その隣に平積みにされたハードカバーの小説が目に留まり、視線を上げれば奥に昔懐かしい児童書のコーナーが見える。店内にいると、一つの興味から次の興味へと連鎖するように好奇心がくすぐられる。
野村呼文堂の創業は1923年。枚方市三矢町で文具と書籍の販売を始め、1953年に株式会社野村呼文堂として法人化した。長年にわたり小・中・高校の教科書販売や本の配達なども手がけ、現在は枚方市の本店に加えて寝屋川市に店舗を構えている。
インターネットでの書籍販売やデジタル書籍が普及し、書店に足を運ばずとも本が読める現代、まちの書店の数は全国的に減りつつある。それでも紙に印刷された本を空間に並べ、人の手から手へと届け続ける同社。その背景には、「縁」を大切にする会長の野村宜孝氏とそのご子息であり社長の文俊氏の想いがある。
「これからも昔ながらの書店として生きていきたい」と話すのは文俊氏。野村呼文堂には地域の子どもや高齢者も訪れ、インターネットが苦手なお客様も少なくない。同店は、そんなお客様が本を気軽に買える場であり、書店員との対話を通して本の面白さを発見する場にもなっている。「デジタル化とは一線を置いたローカル路線を貫けば差別化でき、そこに当店ならではの価値が生まれると思うんです。カフェブームが一周回り、純喫茶が注目され始めたのと同じことです」。もちろん、受発注や配送など店舗の運営面はシステム化されている。しかし、店頭に並ぶ雑誌のラックや店内の手書きポップ、所狭しと並んだ本など、お客様の目に映る店構えはアナログのまま変えない。だから、誰もが入りやすく買いやすい。デジタル化や最先端を追えば、常に激しい競争にさらされる。アナログを選択することは、その競争に巻き込まれないための経営面での戦略でもある。

本と人・ご縁について語る、宜孝氏、文俊氏
しかし何より、本との出会いが広がることにアナログの価値があると文俊氏は考えている。「デジタルのメリットは、自分が興味のある分野をどんどん深掘りでき、読む本の“質”を高めていけるところです。ただ、量より質とはいえ、ある程度の量を読まなければ質も見えてきません。本を楽しめるようになるには、量も大切です」。書店の魅力は、目当ての本の隣にまた違ったジャンルの本が並び、興味がどんどん広がっていくところにある。偶然出会った本が、人生を変える一冊になることもある。「一定の量を並べておき、いろんな本との出会いを提供したい。選択肢を広げ、その中から選んでいただくことが私たちの仕事だと思っています」。おすすめの本を聞かれることも多い。そのたびに、対話を通じて興味や好みを探り、その人に合った一冊を提案する。そんな文俊氏のもとには、出版社から発売前のまだ表紙もない見本が届き、感想を求められることもある。幅広い本を読み、その魅力を多くのお客様に伝えてきたからこそ、語れる言葉があるのだろう。本そのものは、どこで買っても内容も価格も変わらない。しかし野村呼文堂には、本との偶然の出会いがあり、今の自分に合う本選びに寄り添ってくれる書店員がいる。「昔ながら」「アナログ」という言葉で語られるそのスタイルは、よりパーソナルなものが求められる今、むしろ現代的とさえ言えるのではないだろうか。デジタル化を進めるのではなく、デジタルと戦うのでもない。共存しながら本と出会う場を広げ、地域の人に豊かな時間を届けるのが、野村呼文堂だ。
宜孝氏は、「本は人の心の糧」と話す。「お客様が選ぶ本には、その人の趣味や思想がそのまま表れます。だから注文を受ける本屋は、お客様のことをよく知り、関係性を深めていけるんです。一方でお客様の内面に触れることになるため、お届けする時には、他の方には見えないように紙の袋に入れています」。まちの本屋が届けているのは、単なるモノではないのだ。
本が人に豊かさをもたらす一方で、書店は今、デジタル化だけでなく「活字離れ」という問題にも直面している。動画など視覚的なコンテンツが浸透した影響もあるが、そもそも「本は難しい」と思う人も多いのではないだろうか。文俊氏はこう話す。
「幼児のうちは楽しんで本を読みますが、小学生になった途端、読書は勉強になってしまう。音楽は授業であっても“音を楽しむ”と書くのに、本は“文を学ぶ”と書くでしょう。でも、文章だって楽しまなければ頭に残らないし、続きません」

本への興味がわくポップ作り

誰もが入りやすい・買いやすい店
低年齢のうちから本を味わう機会を増やし、まずは本を好きになる気持ちを伸ばしたい。そうすれば、自然と学びにつながっていく――そんな想いから、毎月第一土曜日に読み聞かせを開催している。場所は、本店の児童書コーナー。「本に囲まれた店内で読み聞かせることが大切なんですよ。ワクワクする雰囲気の中だから、子どもたちも笑顔になり、物語の世界に入り込んでいくんです」と宜孝氏。
本を好きな気持ちがやがて学びへの意欲になり、豊かな心を育んでいく。それを象徴するようなエピソードを、宜孝氏は教えてくれた。「去年、高校向けの教科書を生徒さんが一人で買いにこられて、『買えてうれしい。この教科書で勉強できることが楽しみです』と言ったんです。そんな言葉を聞くのは久しぶりで、びっくりしました」と目を細める宜孝氏。人の手で本を届ける仕事は、時にこうした想いのやりとりにまで発展する。

読み聞かせの場になる児童書コーナー
宜孝氏には、当商工会議所の商業部会の運営に携わっていただいているほか、重要な決議の場にも参加いただいている。また文俊氏は、年に一度全国の出版社と取次店、関西の書店員が一堂に会する国内最大級の商談会「BOOK EXPO」の実行委員長を務めるなど、業界の活性化にも尽力している。
こうした活動の根底にあるのは、代々受け継がれてきた「おかげさま」の心だ。宜孝氏の父で前会長の野村春男氏も、口癖のように言っていたという。それからもう一つ大切にしているのが、ご縁です。たくさんのお客さまが来店されますが、その出会いが深いご縁になるかは、自分の気づき次第。“おかげさま”の心で接する中で縁を深めてきたことで、今日まで商売を続けてこられたと感じています」。長年にわたり地域づくりに貢献し、また地域に育てられた野村呼文堂。これからも書店を通じて地域の人と本との思いがけない出会いを紡いでいく。

| 事業所名 | 株式会社野村呼文堂 |
|---|---|
| 所在地 |
〒573-0031 |
| TEL |
072-843-0221 |

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