北大阪商工会議所 会員紹介
2025.12.15更新
“できる”を信じて技術を拓く
自動車設計から広がるものづくり

今回の主人公は、大阪府枚方市津田山手の津田サイエンスヒルズ内にある株式会社坂本設計技術開発研究所の代表取締役、坂本喜晴氏(72)と経営企画室室長の村岡つかさ氏(44)のお二人だ。同社は、坂本氏が1978(昭和53)年、金型設計専門の設計会社として創業し、自動車用プレス金型設計を主軸としてきた。20年ほど前からは、自動車業界で培った3D設計技術を活用し、3Dデータを使ったものづくりのトータルサポートを展開。医療機器、文化財、テーマパーク造形などへと射程を広げてきた。大阪・関西万博では、他の企業や大学と「忍者ロボット」を共同開発している。坂本氏は「形があるものは必ずできる」を信条に次々と実践を重ね、同じ思いを持つ社外のネットワークも誇るべきものがある。
同社の挑戦は、変化が激しい時代においても、基盤技術の抽象度を高めて適用先を拡張することで、持続的に価値を生み出す好事例といえる。ユニークで情熱あふれる同社のものづくりについて、お二人に話を伺った。
同社は、1978(昭和53)年、坂本氏が25歳で独立し、金型設計専門の設計会社として創業した。自動車のプレス金型設計を中心に成長してきた。当初は「自動車の設計は、自分が生きている間はなくならない」と考えていたそうだが、時代の変化は早かった。エンジンからモーターへと移行する潮流の中で、坂本氏は早くから次の一手を模索していた。
長年自動車業界で培った3D設計技術を活用し、新しい挑戦を始めたのは20年ほど前。関西医科大学をはじめ地域の医療機関の医師や技師たちから「こんな器具を作れないか」と相談を受けたのがきっかけだった。厚生労働省の医療機器製造業許可を取得し、本格的な開発体制を築いた。「手首の固定に苦労している」という医療現場の声を反映し、装着するだけで手首の角度が決まるカテーテル検査用の手首固定具「ラディアルシーネ」を開発したほか、患者のCTデータをもとに3Dデータを作成し、人工関節の骨モデルの開発にも成功。難症例の骨モデルを作成することで、医師の手術精度を高めたり、医学生への指導に役立てたりと、医療現場のさまざまな場面で活用されている。「骨粗しょう症で寝たきりになった高齢女性の手術に骨モデルが使われ、温泉旅行に行けるほどに回復したという話を聞いた時は嬉しかった。我々の技術が人や社会の役に立っていると実感し、とてもやりがいを感じた」と胸を張る。
このほか、乳がん患者等の乳房再建手術では、移植する脂肪の量を正確に測定するのが難しいという課題があったため、同社が3Dスキャンで正確に計量できるシステムを開発した。こうしたシステムを学会発表したところ、京都にある大手下着メーカーからも依頼が舞い込み、再建手術を受けた女性の術後のブラジャー開発にも協力することになった。さらに、このメーカーと技術提携を結び、下着の型紙の三次元化やデータベース化にも貢献した。「いわゆる“糸へん”の業界では、ブラジャーでいうと10数個あるパーツの型紙から布地を切って縫製し、立体にしていくというやり方が常識だった。一方、我々は元々が車なので、先に完成のモデルがあり、どこで分割するかというラインを作り、展開していく。やり方が全く逆で、従来の型紙中心の開発工程を三次元データへ置換することができた」と解説する。
「形があるものは必ず作ることができる」というのが、坂本氏の信念だ。その信念を原動力に、同社の技術はさらに文化財や芸術の分野にも適用が広がっていった。栃木県足利市にある大岩山多聞院最勝寺から依頼を受け、日本三大毘沙門天の一つである大岩山毘沙門天像の3Dデータ化に協力した。経年劣化に加えて、数年前に起きた林野火災の際に緊急搬出され破損していた仏像を修復するのに伴い、仏像三体を3Dスキャンしデータ化した。さらに「自宅に置ける毘沙門天像が欲しい」という檀家からの要望で、スキャンデータをもとにミニ仏像を鋳造したそうだ。
姫路城で行われるパレードで使われていた槍をスキャンして軽量素材で復元したほか、大阪・羽曳野市の古墳から出土した日本最大の石見型木製品を3Dスキャン、モデリング、NC加工機などで発泡モデルを切削し、塗装して復元品を製作。大阪府立近つ飛鳥博物館で展示されるなど、文化財の保存・再現にも携わっている。「仏像など文化財には直線がない。自動車も直線はなく曲線の積み重ねだからこそ、自動車の設計技術がそのまま活きる。自動車をやっていなかったらできなかった」と坂本氏。「高さ70メートルくらいまでは3Dスキャンが可能なので、文化的価値のある建物そのものをデータ化して残すこともできる。万が一火災などで消失した際にも復元することが可能になる」と意義を強調する。

実際の製品の詳細な解説をする村岡室長
携わるジャンルは益々広がっている。ファッション分野でも、「ROLL」をテーマとしたドレス2体のロボットアーム切削を担当し、パリのANREALAGE2017〜2018年秋冬コレクションで発表された。さらには、記憶に新しい大阪・関西万博においても、大阪ヘルスケアパビリオンで展示された「忍者ロボット」を企業や大学と共同開発。一度吸着すると無通電で吸着し続ける技術を利用し、壁や天井を自在に動き回るロボット部分と忍者の装飾を製作した。このほか、未来の都市パビリオンのスマートポールにも協力。人気テーマパークなどでも、同社の製作技術が多数活用されているという。

ANREALAGE COLLECTION
発表された加工後のドレス

万博初期に平面から想像で立体に起こしたミャクミャク

大阪関西万博にて下西技研工業、大阪工業大学と共同で開発した忍者ロボット

有名寺社から依頼のあった像のミニチュア

病院から依頼された骨の立体成型物

楽しそうに仕事を語る坂本社長
当商工会議所では、これまで同社の事業計画の作成やウェブサイトの支援などを行ってきたほか、当所が事務局を持つクラスター研究会にも参画いただいている。
同社の今後の動きに目を向けると、現在、四国の山あいにその名も「秘境のサテライトオフィス」を整備中だ。大阪とは違った“デトックス空間”を作る狙いだという。現在、23歳の若手社員がモデリングや三次元設計などの技術を本社で習得中で、いずれはサテライトオフィスの第一号として、リモートで仕事が展開できるように準備を進めている。「若い人には“できない”ではなく、“できる”と考えてほしい。できると思った瞬間に、頭が動き始める」と坂本氏は強調する。
坂本氏の信条は、どんなに難しい依頼でも「まず“できる”と考える」ことだ。そして「一番大事なことは、困った時に相談できるチームを社外に作っておくこと。社外で、材料や加工など小さい会社の特殊な技術を持つ人たちと連携していると、電話一本ですぐに相談ができる」。
同社が最近手掛けた、ウォッカ「インペリアルコレクション」を主力に取り扱うラドガジャパンの依頼によるバイオレットのベルベットケースの製作は、難易度の高い仕事だった。既存のケースの図面や材質等の情報がない中、「素材は何で、どうやって作られているのか」を解明するところからのスタートだったという。
強みの3D設計技術と職人ネットワークを活かし、材質や工法を検討。静電植毛加工、箔押し、組み立ての職人が集まり、検討・設計・試作を重ねて丁寧に作り上げた。仕上がった製品は高い評価を得て、販売当日に完売するなど大好評だったそうだ。
坂本氏と共に携わった村岡氏は、「かつて日本に数多く存在した静電植毛加工や箔押し加工、水圧転写など、優れた技術を持つ職人や手仕事が失われつつある」と危機感を語る。坂本氏と各地を飛び回り、二代目、三代目の職人ネットワークを築き上げた。そこに集まったのは、「他の人ができない仕事をしたい」という面白い人たちばかりだという。坂本氏は、酒を酌み交わしながら語り合える“人情の異業種ネットワーク”と名づける。このネットワークこそ、技術を支える“人の力”だと信じている。

復元依頼を受けたロシアの高級ウォッカ
47年前の創業当初、仕事がなく苦しかった時期も「できます!」と即答し、他社では取り扱わないような仕事を懸命にやり遂げてきた。その積み重ねが今の同社を作っているのは間違いない。
「ものづくりの技術は習得するまでに何十年もかかる。私の場合は、長年自動車で培った設計技術があったから、どんな変化にも対応できた」と振り返る。
「志を一度立てたら、人に頼らず世に願わず、断固として一人でも楽しんで実行する」。旧知の友人から“吉田松陰のようだ”と評される坂本氏の姿勢は、技術者としての誇りと信念を物語っている。自動車設計から始まった挑戦は、医療、文化、デザインの世界へと広がり、今も進化を続けている。

| 事業所名 | 株式会社 坂本設計技術開発研究所 |
|---|---|
| 所在地 |
〒573-0128 |
| TEL |
072-897-5311(代表) |
| HP |