北大阪商工会議所 会員紹介

2025.06.17更新

株式会社ノボル電機 代表取締役 猪奥元基氏

創業80年 拡声器一筋の“音の専門メーカー”
「スマホ用無電源スピーカー」が大阪・関西万博“大阪代表商品”に

今回の主人公は、枚方市茄子作南町に本社を構える株式会社ノボル電機の代表取締役、猪奥 元基氏(43)。同社は、拡声音響装置の専門メーカーとして長い歴史を持つ。創業は1945年、猪奥社長の祖父・要氏が戦後の混乱の中、大阪市内でラジオ修理業からスタートし、やがてラッパのスピーカー、アンプの製造を始め、拡声用音響装置の製造へと事業を拡大した。以来80年にわたり一貫して拡声器を中心とした製品づくりを行い、堅実な経営を貫いてきた。同社の強みは、「100台単位、3桁のものづくり」と表現する「中量生産」に特化し、高品質を維持しながらも効率的な生産を実現してきたことだ。この強みこそが、同社が市場において独自の地位を確立できた理由である。

2018年、元基氏が3代目社長に就任し、本社・工場を枚方市に移転。「拡声器メーカー」から「電子機器組み立てメーカー」への進化を目指し、B to Cの商品開発にも乗り出した。その第一弾であるスマホ用無電源スピーカー「拡音器」は、大阪・関西万博の大阪代表商品に選定され、ノスタルジックな音響を楽しめるとして注目を集めている。

時代に合わせて変化を遂げるノボル電機の猪奥社長に話を聞いた。

拡声器一筋、中量生産の堅実経営

楽しそうに展望を語る猪奥社長

ノボル電機の強みを尋ねると、「拡声器一本の堅実経営でやってきたことだ」と、3代目社長の猪奥元基氏は語り出した。「中量生産とか3桁のものづくりって僕らは表現するんですが、大量生産ではない、でも試作品でもない、100台単位で、品質を保証しながら量産するものづくりがノボル電機の本当の強みだ」という。

拡声器の市場は決して大きな規模を持つわけではない。国内市場は数百億円程度とされ、限られたプレイヤーのみが参入できる業界だ。その理由の一つが、高額な初期投資が必要とされる点である。たとえば、メガホン一つ製造するにも数千万円規模の金型投資が求められる。こうした参入障壁の高さが、ノボル電機の競争優位性を生み出している。同社は業務用拡声用音響装置の市場において、独自の「かゆいところに手が届くニッチな製品開発」を強みとし、特定用途向けの業務用製品を数多く展開してきた。

たとえば、船舶用スピーカー・汽笛では高いシェアを誇り、日本の造船業界で広く採用されてきた。また、消防設備向けの金属製スピーカーや、ゴミ収集車から音楽が流れるオルゴールアンプ、クレーン車に装着される安全確保のための拡声器、学校・警備業界向けのメガホン、構内放送システム用など多岐にわたる。特定のニーズに応じた製品群を持ち、その種類は150品目にのぼり、全国3,000社と取引があるそうだ。

ノボル電機の製品は「とにかく壊れにくい」として知られている。海辺で何十年も使われたスピーカーを調べたら、実は製造から50年経っていたという話があるほどだ。業務用としての製品の信頼性が、同社の大きな強みになっている。


「拡声器メーカー」から「電子機器組み立てメーカー」へ

スピーカーの周波数特性等を測る無響室

3代目となる、元基氏が社長に就任したのが2018年。元基氏は、大学を卒業後、陸上自衛隊で勤務していたが、27歳の時、家業を継ぐことを決意した。「父から話を持ちかけられ、4人きょうだいで姉や弟はそれぞれの道を進んでいたし、長男である私がやるべきかなと考えた」と明かす。社長就任と同時に枚方市に本社・工場を移し、新たなスタートを切った。

歴代製品のすべてを見渡せる展示コーナー

そして、「拡声器のメーカーから電子機器組み立てのメーカーへの脱皮」を掲げた。その狙いについて尋ねると、元基氏は「先代の父とノボル電機の強みの棚卸しを徹底的に行った。拡声器メーカーとしてニッチな需要に対応する3桁のものづくりが強みだということを逆から考えてみると、3桁のものづくりに強みがあり、今、多品種小ロットのものづくりが求められている。じゃあ、拡声器以外のものを作ってもいいんじゃないかという発想に至った。60人くらいの会社なのでフットワークが軽いという利点も活かせると考えた」と解説する。“電子機器の中ロットの組み立て”を武器に、拡声器で培った技術を、音響周辺の別の市場にも展開できるのではないかと考えたわけだ。「電子機器組み立てメーカー」への進化を目指し、受託生産やOEM製品の開発にも注力していく。ノボル電機の強みである「中量生産による高品質なものづくり」を基盤に、電子機器分野への事業拡大を図りつつ、業務用市場と消費者市場の両面で新たな価値を提供していくことになった

B to C市場への挑戦

話題の無電源スマホ拡音器

2021年には、一般消費者向け新ブランド「ノボル電機製作所」を立ち上げ、B to C市場へ参入。その第一弾が、スマホ用無電源スピーカー「拡音器」で、このほど大阪・関西万博の大阪代表商品に選定された。大阪が誇れる魅力ある新たな大阪みやげを創出しようという取り組みで、50品のうちの1つに選ばれたのだ。この商品は、ノボル電機のシンボルともいえる金属製ホーンスピーカーの形状やデザインを踏襲しており、拡声器の原理を応用したスマートフォン用スピーカーだ。電源不要ながら音を増幅させる仕組みを持つ。くぼみ部にスマートフォンを差し込んで音楽を再生すると、拡声器らしい音質へ増幅され、ノスタルジックな味わい深い音響体験を届けることができる。「昔っぽいこもった音が面白いとか、ラッパの形が好評でした。例えば、ホームパーティーで拡音器を置いておいて、参加した人がスマホを置いて体験してみる。イベント的な使い方ですよね。専門家が、“価値”の消費から“意味”の消費に変わっているという話をされていたけど、目から鱗でした。みんな体験を買いたいんだなということに気づきました」。

このほか、「ノボル電機製作所」は、“不器用なガジェットの愛おしさ”をコンセプトに、シンプルな機能と風合いのあるスイッチや質感を大切にし、少し無骨な、それでいてやさしい気持ちになれる製品を展開しており、クラウドファンディングで多額の支援を集めるなど、大きな注目を集めている。「ホーン型スピーカー+アンプ」の製品も開発し、昭和のラジカセのように懐かしい音を出すものも売り出した。最新のクリアなサウンドとは異なる「レトロな響き」が、カフェやインテリアショップなどで好評だ。

B to C商品のスタックアンプ用に開発したモノラルアンプ

当商工会議所では、同社のB to C商品の開発や販路開拓の支援を行っており、大阪代表商品への応募にあたってもサポートをさせていただいた。同社は、枚方市の地域一体型オープンファクトリー「不器用FACTORY」にも参画し、子どもたちが段ボールスピーカーを作るワークショップを開き、音の仕組みやものづくりの面白さを学べる機会を提供するなど、地域に向けた活動にも積極的だ。

猪奥氏に今後の展望を伺うと、「拡声音響装置の専門メーカーから、電子機器組み立ての専門メーカーへという目標に向け、大阪代表商品は一つのトライだと考えている。大阪・関西万博をきっかけに拡声器や音の世界をもっとたくさんの人に知ってもらい、今後、いかに事業に結びつけていくかが課題だ。私自身3代目なので、先代から受け継いだ社風や歴史、文化を大切にベースとして保ちながら、時代の変化に応じて挑戦を続けていきたい」と力強く語った。

新しい音の世界を切り開こうとしているノボル電機。業務用製品で培った高い技術に遊び心を加えて、新たなファンを呼び込む。そして、拡声器周辺だけではなく、さまざまな電子機器を受託生産していく。ノボル電機らしさをより深化させる挑戦が、今後どこまで広がっていくのか楽しみである。

Member Data

事業所名 株式会社ノボル電機
所在地 大阪府枚方市茄子作南町229-1
TEL 072-852-5860
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