北大阪商工会議所 会員紹介
2025.11.05更新
第三者事業承継でダンススクール創業
23歳経営者が思い描く“子どもが過ごしやすい街”

今回の主人公は、枚方市楠葉並木を拠点に展開するダンススクール「HigH RolleR(ハイローラー)」の代表、木村美湖氏(23歳)。木村氏が5歳から通っていたダンススクールがコロナ禍で閉鎖の危機に陥り、「大好きな場所を守りたい」という一心で引き継ぎ、2024年4月に創業した。現在は、木村氏を含め7人のインストラクターが携わり、創業からわずか1年余りで200人を超える生徒が集まる人気のスクールとなった。
さらに今年8月、枚方市東船橋にバー「MOONLIGHT(ムーンライト)」をオープン。木村氏はダンススクールとバーの経営に大忙しの毎日を送る。2年で大学を辞めて経営者の道に進んだ木村氏は、「どんなことにも挑戦するべきだと早く気づけたし、好きなことを絶対に諦めない方が良い」と語る。
今の目標は、ダンススタジオの二店舗目の展開だ。そこには、「子どもたちが生き生きと、安心して過ごせるように大人と子どもが気軽に交流できる場所を作りたい」という思いも込めている。木村氏は、11月20日に当所が枚方市・枚方信用金庫等と開催する事業承継セミナーにも登壇し、第三者事業承継の経験について語る予定で、注目の若き経営者の思いに迫った。

ダンススタジオ
木村氏がダンスと出会ったのは5歳の頃。以来、17年間にわたりストリートダンスを中心に様々なジャンルのダンスを学び、「MIKO」のダンサー名で舞台に立ってきた。ミュージカルに出演し、ダンサーのほか芝居をした経験もある。しかし、将来ダンスの道に進むとは考えていなかったそうだ。「小学生の頃はダンスの先生になりたいと夢見ていたけど、中学、高校ではソフトボールや柔道、それに囲碁もやっていたし、勉強も頑張っていたので、大学に進学して普通に就職すると思っていた」。
2020年、大学の経済学部に進学したが、コロナ禍で授業が制限された。「授業もない、テストもステージのイベントも全てなくなった。手応えがなくなり、『もう辞めよう』と思って大学を辞めた。周りには反対されましたけど…」と明かす。木村氏は、2年で大学を退学した。
ちょうどその頃、コロナの影響を受けて、長年通ってきたダンススタジオが存続の危機に瀕していた。ピーク時は60人ほどいた生徒が、6人にまで減り、オーナーは閉鎖を考えていたという。「5歳から通っていた大好きな場所だったので、閉めて欲しくない」との気持ちで、木村氏は後輩と一緒に「何でも手伝いますからもうちょっと頑張りましょう」と支えた。スタジオの壁に絵を描いたり、自由に踊ったりしながら雰囲気を保ち、コロナ明けに向けて再起を図った。
やがて生徒が少しずつ戻り始め、木村氏の生徒もつくようになった。4人きょうだいの長女で12歳下の妹の世話をしてきたという木村氏はダンスの腕前だけではなく、その接しやすさから子どもたちに慕われていた。しかし、アルバイトを掛け持ちしながら、レッスンをする日々に限界を感じ、オーナーに「社員として雇用して欲しい。給料は少なくてもいいから運営に入らせてほしい」と直談判した。木村氏が社員として運営に関わるようになると、さらに生徒が集まり、70人ほどにまで増えたという。そして2024年1月、第三者事業承継でダンススクールを引き継ぎ、22歳で経営者となった。
木村氏が経営者として最初に取り組んだのは、インストラクターの待遇改善だった。「ダンスのインストラクターとして生活していくのは本当に大変。ギャラも少なく、イベントへの交通費も出ないことが多い。だから私は、ギャラも交通費もきちんと出すし、集客やスクールの保護者とのやりとりなどは全て経営者の私がやるというスタイルを打ち出した」。この方針が信頼を呼び、昔からの仲間や外部のインストラクターを集めることができた。今では木村氏を含めて7人の指導者が在籍、うち2人は社員として運営にも携わる。「社員の2人は、子どもの頃からずっと一緒にダンスをやってきた友達で、覚悟を決めて私についてきてくれているので、頑張らないといけないという気持ちです」。
ダンススクールで大切にしているのは、「初めてダンスをやる子どもたちを応援したい」ということだ。
インストラクターをたくさん集めたことで、ヒップホップ、GIRLS、ブレイクダンスのほか、子どもたちに人気のあるK-POPやアイドルダンスなど幅広いジャンルのレッスンを取り入れることができた。「私はヒップホップ一筋だったけど、みんなが知ってるK −POPとか原宿系の曲で踊るアイドルという新ジャンルを入れたことで、ダンスを始めるハードルが下がった。アイドルダンスは、小学生女子に大人気で、そこが登竜門となって、ちょっとずつ他のジャンルもやってみんなのレベルが上がっていく流れができた」という。

展望を語る木村代表
スクールは現在、枚方市楠葉並木のダンススタジオに加え、カルチャーハウス香里ヶ丘、小学校体育館の3か所で展開し、子ども向け施設などへの出張レッスンも行っている。口コミやSNSでの広がりで、生徒数は増加の一途をたどり、今では、3歳から大学生まで約200人の生徒が通う人気のスクールとなった。
今年8月、枚方市東船橋に「BAR MOONLIGHT」をオープンした。知人に居抜き物件を紹介されたのがきっかけだった。「話をいただいて、見るだけのつもりで行ったけど、店の空間の雰囲気がめちゃくちゃ気に入った。元々飲食をやりたかったわけではないけど、チャンスなのでとにかくやってみようと思った」という。
コンセプトは「いいお酒が楽しめるバー」。ウイスキーやシャンパンを豊富に揃えている。名前の「MOONLIGHT」は、「月が好きで、ダンススタジオの二店舗目をやる時に付けたいと考えていた名前。たまたま前のバーの名前が『満月』で、元の常連さんもおられるだろうし、月つながりで『MOONLIGHT』にしようと決めた」という。店内には、月を意識した照明を備えた。バーとしては広めの店内で、25人程度の貸切パーティーも可能で、近く料理人も入れる予定だという。「ここで昼はカフェもやりたいし、弾き語りとかイベントもできたらいいなと思っている」。
現在23歳で、ダンススクールとバーの経営者として、昼間はダンスレッスン、夜はバーにも顔を出し、週末はダンスイベントと多忙を極める木村氏。「今の自分にびっくりしている。1日48時間くらいあればなという気持ち」だという。

イベントの様子
当商工会議所では、第三者事業承継の際に相談支援をさせていただいた。「周囲から『とりあえず商工会議所に相談に行ってこい』と勧められて行ったけど、そこで補助金のことや、財務の相談に乗っていただき心強かった」と話す。11月20日に当所が枚方市・枚方信用金庫等と開く「事業承継セミナー」に登壇予定だ。
木村氏は、地域イベントにも積極的に参加し、ステージで子どもたちがダンスを披露し、木村氏が司会を務めるなどしている。「子どもたちが発表できる場を持つと、親御さんも喜んでくださるし、地域全体が盛り上がります」
創業から、1年余りで、目標としていた生徒数200人を達成した木村氏。次の目標は二店舗目のスタジオの開設だ。新たなスタジオやバーを夕方、子どもたちの居場所として開放したいという構想も練っている。「私は子どもが大好きで、子どもたちが生き生きとしているところを見ていると元気がもらえる。だから、子どもたちが過ごしやすい街にしたい。公園で遊ぶ子が減っている今、大人と交流しながら安心して過ごせる場をつくりたい。高校で始めた囲碁はアマチュア二段を持っていて、囲碁は、発想の転換で素人でもプロに勝てる瞬間があってとても面白いので、囲碁教室も開きたいし、自習スペースとかもやりたいですね」とアイデアは尽きない。
ダンスだけでなく、地域の子どもたちが健やかに過ごせる街づくりを目指す。「何でも挑戦してみたらいいと早く気づけたのは良かった。好きなことを諦めずにやっていきたい」。23歳の言葉には、未来を切り開く力が満ちている。