北大阪商工会議所 会員紹介

2025.10.14更新

京阪米穀株式会社 代表取締役 おにぎりマン 米田 幸司 様

安心・安全なお米を農家から消費者へ
“おにぎりマン”の1%戦略とは

今回の主人公は、寝屋川市本町の京阪米穀株式会社の代表取締役、米田幸司氏(67)。米田氏が営む米店には、自身が扮する“おにぎりマン”のイラストと「農薬嫌いのお米屋さん」の看板が掲げられている。かつては業務用の米を主に扱っていたが、薄利多売のビジネススタイルに限界を感じ、農家から直接仕入れるルートを自ら開拓した。北海道から四国まで全国の農家に米田氏が直接出向いて確かめ、厳選した安心・安全な米だけを仕入れて消費者に提供する。海外では安全性への懸念から規制されているネオニコチノイド系農薬を使用しないネオニコフリーの米にもこだわる。

さらに、米田氏がオリジナルのおにぎりの被り物とTシャツ姿の“おにぎりマン”に扮し、SNSやYouTubeで米の消費拡大に向けた発信にも力を入れる。生産者と消費者を結びつけるためのイベントなども定期的に開き、大きな反響を集めている。「少し価格が高くても安全なものを食べたいという1%のお客様に安心を届けるのが私の使命です」と語る米田氏。安心・安全にこだわるおにぎりマンの1%戦略について話を伺った。


仕入れの常識を覆す!農家直結スタイル誕生まで

楽しそうに展望を話す米田社長

1964年(昭和39)、父の米田實氏が「米田雑穀店」として創業、二代目の米田幸司氏が1988年(昭和63)に法人化し「京阪米穀株式会社」を設立した。当初は、米を大量に仕入れて、一般消費者ではなく飲食店や酒屋などに卸す「業務用専門店」として売上を伸ばした。しかし、その裏では、熾烈な競争の波に飲み込まれていた。スーパーや酒販店が米を扱うようになると、同じ卸ルートから仕入れる米屋は価格競争に直面する。資本力も集客力も劣る小規模米屋は不利であり、いくら売り上げがあっても利益率は低く、資金繰りに苦しんだ。「外から見れば結構販売力がある米屋に映っていたかもしれませんが、実際は儲けが少なく、“火の車”でした。非常に苦しく、発想の転換をせんとあかんと思いました」と米田氏は振り返る。

最新の精米機 風の力で糠や虫食米を綺麗に除去し、粒の大きな米を選別できる

「企業は成長するか衰退するかしかない。現状維持は衰退を意味する」と考えていた米田氏は、農家からJAを通じ卸売業者を経て小売店へという従来の米の流通システムに依存したままでは未来がないと悟った。そこで着目したのが、農家からの直接仕入れである。最初のきっかけは、高校時代の同級生が姫路の大規模農家であったことを思い出したことだ。友人に連絡先を聞き、卒業以来連絡を取っていなかった相手に、恥を忍んで電話をかけた。「直接お米を買えないか」と相談を持ちかけたところ、快諾してくれた。同級生の農家から直接仕入れたヒノヒカリは、農協よりも高値で買っているにもかかわらず、卸を経由して仕入れるより格段に安かったという。3割の利益を上乗せしても従来より安い価格で販売できたのだ。お客さんから「このお米、安くて大丈夫?」と聞かれたが、「私が知っている農家さんが真面目に作ったお米ですので安心してください」と説明した。すると「美味しい」と評判でリピーターが付くようになった。「お客さんは今までより安くお米が買えて、しかも美味しい。農家も農協より高く買ってもらえて、さらに私も今までよりも儲かる。驚きました」と“三方よし”の当時の衝撃を語る。

それ以来、直仕入れへの挑戦が本格化する。全国でリストアップした農家に電話をかけまくり交渉した。「大阪の米屋がいきなり電話してきて『あんた誰や』の世界ですけど、100軒かければ1軒くらいは話を聞いてくれたんです。米作りは儲からないから農家の高齢化が進んでいる。農協に出すより高く買ってくれるなら、と応じてくれるところもありました」。話を聞いてくれるところが見つかると、すぐにトラックを運転して農家の元へ走った。信用を得るために現金を手に各地を回ったという。こうした足で稼ぐ努力の積み重ねで、今の直仕入れスタイルを築き上げた。

「特別栽培米」「ネオニコフリー米」へのこだわりと1%戦略

直仕入れに活路を見出した同社だが、米田氏は「自分と同じような手法をとる人は他にもいるだろうから、最終的にまた安売り合戦になると困る」と危機感を感じていた。そこで次に注目したのが「特別栽培米」である。慣行栽培に比べ、農薬や化学肥料の使用を半分以下に抑えた米は、全国流通の中でもわずか5%程度しか存在しない。希少性の高い安心・安全な米に絞ることで、差別化と付加価値の両立を図った。

多種多様の厳選された特別栽培米の米袋が綺麗に並ぶおしゃれな店内

日本全国から集めた特別栽培米が所狭しと積み上げられる倉庫

さらに米田氏がこだわったのは「ネオニコチノイド系農薬を使わないこと」だ。「ネオニコチノイド系農薬は殺虫剤で、神経系統を混乱させることで虫を死にいたらしめる薬です。発達障害や生殖機能低下などとの関連が指摘されていて、日本以外の先進国では使用が禁止されています。しかし日本では依然として広く使われていて、農家の多くが意識せず使用しているんです。農家さんに“ネオニコを使っていますか?”と尋ねても、ほとんどの方が知らない。それほど当たり前に流通している薬です」と米田氏は警鐘を鳴らす。同社では農家に一から説明し、理解を得てネオニコチノイド系農薬を使用しない栽培を依頼している。手間もかかるが、その価値は大きい。ネオニコフリーの米は、自社で登録商標を取得したオリジナルロゴのシールを貼り、健康や環境にやさしい米として消費者に強く訴求する。米田氏は「安売りは商品の価値を下げるだけ。価値を高めることが企業努力だと考えています。私が産地を訪問し、農家さんから直接仕入れる。仕入れるのは、お米が育つ環境や栽培方法を詳しく勉強し、良い作り方をしている農家さん。プラス、減農薬栽培や、無農薬栽培、ネオニコフリーのお米を厳選していますというストーリーが私のこだわりです」と強調する。これらが京阪米穀の揺るぎないブランドの基盤となった。

次に、米田氏が考えたのは「誰に届けるか」であった。「100人いたら99人はスーパーなどで米を買う、うちのファンは100人のうちの1人です。店舗に近い寝屋川と周辺市の人口は約97万人で、その1%は9700人、約3500世帯分に相当する。うちの規模だと1%で十分なんです。その1%は、価格ではなく「安心」を選ぶ層です。子どものアトピーが心配だとか、がんや生活習慣病の予防を意識して安全な食材を選ぶ家庭。人間の体は食べたものでできているので、安心なものを食べたいと考える1%の人にどうやって私の思いを伝えるのかということが私のビジネスの根幹です」と力を込める。

“おにぎりマン”の発信力

安心安全な米をどう伝えるか。そこで生まれたのが“おにぎりマン”だった。米田氏自らがおにぎりの被り物とTシャツ姿で全国の産地に出向き、その様子をSNSやYouTubeでも発信する。「おにぎりマンの役目は二つ。一つは、お米の消費拡大、もう一つは生産者と消費者をつなぐことです」と米田氏は説明する。「かつて日本人は1人当たり年間118キロの米を食べていたが、この50年ほどで半分以下の49キロまで減少してしまった。私が“ご飯を食べましょう”と言ってもインパクトが薄いので、“おにぎりマン”がPRします」。

自社で運営する「おにぎりマン農園」の採れたて野菜が所狭しと並べられるレジカウンター

きっかけは、向かいにある洋菓子店主からの「店には発信力が必要だ」というアドバイスだった。当商工会議所でも米田氏からの経営相談に応じ、店舗改装などの補助金活用にもつなげた。おにぎりマンのロゴも看板に据え発信力を高めた店舗では、生産者と消費者をつなぐためのイベントも年に2回ほど開催し、人気を集めている。農薬不使用の野菜販売や、北海道産ゆめぴりかのおにぎりなどを提供したイベントでは600人もの人が訪れたという。生産者を紹介しながら提供することで「誰が作った米か」が伝わり、購買にもつながる。

安心・安全な「和」の世界を

米田氏は、5年後、10年後も見据えた計画を描いている。物流面では、さらに大きな仕入れにも対応できる体制を整えたいという。
また、店舗を拠点に安心・安全な和の食文化を伝えていきたいと考えている。「無農薬の塩むすび専門店をやりたい。全国を回っているから、鮭やイクラ、マグロフレークなど各地のご飯のお供と組み合わせて提供したい。ポン菓子やおかき、無農薬の餅米を使ったおはぎ、カレーとか、米に関するアイデアはたくさんある。いろいろなところとコラボして、安心安全の米をもっと知ってもらいたい」と米田氏は語る。
「1%のお客様に安心・安全を届けるのが私の使命です」。米をめぐっては、令和の米騒動などと米不足や米の価格高騰が話題となる中、安心して食べられる米をどう確保し、次の世代につないでいくかという問いへの一つの答えとして、米田氏の奮闘に注目したい。

Member Data

事業所名 京阪米穀株式会社
所在地 〒572-0832
大阪府寝屋川市本町3-6
TEL 072-823-4150
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