北大阪商工会議所 会員紹介

2025.09.09更新

株式会社ミヨシテック代表取締役 永谷 顕 様

“ブルドーザー社長”が牽引するDX改革
非IT人材で成果を出す秘訣とは

所報2025_9月号表紙

今回の主人公は、寝屋川市の株式会社ミヨシテックの代表取締役、永谷 顕氏(51)。創業は1972年。ガスや水道、電気の設備工事などを展開してきたが、近年は、中小企業におけるDX(=デジタル・トランスフォーメーション)の先駆けとして脚光を浴びている。昨年、経済産業省の「DXセレクション2024優良事例企業」に選出されたほか、寝屋川市のユニーク経営賞の最高位である「市長賞」もこのほど受賞するなど、その取り組みは業界内外で高く評価されている。
同社が注目を集める最大の理由は、システム開発やプログラミングの専門家ではなく、“非IT人材”の社員たちによるDX推進にある。業務アプリが作れるサイボウズ社のノーコード・ローコードツール「kintone(キントーン)」を用いて、社員が業務に必要なアプリを自ら設計・実装するという「市民開発」の文化を定着させ、社内のあらゆる部門で業務改善が自走している。
こうした取り組みの中心に立つのが、代表取締役の永谷氏だ。「IT人材の採用が難しい中小企業にとっては、現場の社員が“使えるもの”を自分たちで作れるようになることが何より重要。まずは小さく作って、試して、改善する。この繰り返しが成果につながる」と語る。社内ではこの姿勢から“ブルドーザー社長”の異名を取り、アジャイル型の改革を力強く牽引している。永谷氏は、自社の取り組みなどを本にしたため、『非IT人材で成果が出るDX成功ルール』(あさ出版)を上梓した。中小企業でDXを推進する秘訣は何か、“ブルドーザー社長”に話を伺った。

大型施設から戸建てまで設備事業を幅広く展開

楽しそうに展望を話す永谷社長

株式会社ミヨシテックは、1972年、永谷氏の叔父にあたる三吉忠彦氏が枚方市で「日本瓦斯株式会社」を設立したのが始まりだ。1988年に社名を「株式会社ミヨシテック」に変更。寝屋川市の本社と合わせて6つの拠点で、戸建て住宅から病院・学校といった大規模施設まで、空調、ガス、水道などのライフインフラ設備事業を展開している。また、リフォーム事業にも力を入れ、本社1階にあるショールームは、フロアを拡大しリニューアルオープンしたばかりだ。
永谷氏は、1996年に神戸商船大学商船システム学課程機関学コースを卒業、大学院を修了後、1998年に同社に入社、2008年に三代目社長に就任した。「実は、創業者、二代目、三代目と皆、神戸商船大学出身なんです。船の中には全ての設備があり、機関士として全てを網羅して勉強しているので、船と設備工事会社は実は親和性が高い」という。

リニューアルしたショールーム

社長のリーダーシップでDX推進

大学時代からパソコンを自作するなどデジタル技術に関心が高かった永谷氏。本格的にDXに取り組み始めたのは2019年、サーバーの更新で、クラウド型の顧客管理システムを導入したことがきっかけだった。プログラミングを行わずにドラッグ&ドロップのみで業務アプリが作れるサイボウズ社のノーコード・ローコードツール「kintone」や、典型的な事務作業をロボットが自動で行うRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を導入した。翌年には、社長直轄のシステム課を設置し、藤原かほり課長ら数名のメンバーと共に社長のリーダーシップで改革を進めた。藤原課長は「私は非IT人材ですが、社長がkintoneを入れてみよう!とおっしゃって、おもしろそうだと思いました。ちょうどコロナ禍で、社長と一緒にWEBセミナーを受けまくって勉強し、情報収集しました」。まずは、kintoneで顧客管理のアプリを9つ作ったが、当初は抵抗が大きかったそうだ。「マニュアルがないとか、私の説明が悪いとか、いろいろ文句を言われました」。そして、社長が「全ての業務を洗い出し、情報の収集をし、何が何でもkintoneに集約する!」と号令をかけ直した。
成功の秘訣は、「小さな部分から始め、徐々に範囲を広げていくアジャイル開発だ」と永谷氏は強調する。毎日使える簡単なアプリを皆に使ってもらうところから始めたのだ。たとえば、設備工事の現場から毎日出るゴミは産業廃棄物として正しく管理する必要があるが、これまではエクセルの帳票に手書きしていたのを、ゴミ回収アプリを開発し、スマホでゴミの写真を撮影し、廃棄物量と工事番号を入力する事で、工事単位での経費の概算を見える化できるようになった。電話受付業務では、これまではお客様に電話応対した内容を紙にメモし、チャットワークに転記して担当者に伝えていたが、どうしても入力ミスや漏れがあった。電話入電などを一括管理できるシンカ社のツール「カイクラ」とkintoneを繋ぐことで、お客様からの電話の内容が自動的に記録され、過去の注文履歴なども一括して見られるようになり、電話対応が非常にスムーズになった。こうした日常業務にアプリを導入し、「便利だった」「簡単だった」という実感を社員に広げることで、次第に全社に波及していったという。
同社では、kintoneを情報集約・管理のハブに据え、施工管理や会計などさまざまなツールと連携させることで、工事の見積もり、受注、仕入れ、請求、工事進捗など全ての実績情報を一括集約している。永谷氏は「各部署でバラバラに管理する情報は、会社全体の情報として使えない。情報を全てkintoneに集約できたことで、経営情報をまとめることができた。DX化していく中では、情報の収集集約が一番キーになる」と強調する。

DXの先駆企業として

永谷氏の強力なリーダーシップでDX化を進めた同社。藤原課長は、「社長は、ぐいぐい引っ張って前進していくから“ブルドーザー”と言われています」と明かす。考え方の共有や人材育成のため、各部署に“DXリーダー”を配置し、kintoneやRPAなどの研修機会を継続的に提供しているほか、DX発表会では、部署ごとに成果を発表し、金賞・銀賞が授与されるなど、社員のモチベーションを高める工夫も凝らされている。横展開にも力をいれた結果、今では、社員一人ひとりが自分の業務に合ったアプリやシステムを自分で作る「市民開発」が根づいている。700本を超える業務アプリが社内で開発・運用されており、RPAツール「ロボパット」を活用した業務自動化も進んでいる。たとえば、行政の入札情報などを自動で検索、メール共有しているほか、予算書の印刷なども自動化、業務の効率化につながっている。RPAを使うことで年間3,500時間、1,000万円以上のコスト削減効果を生み出しているという。

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寝屋川市ユニーク経営賞市長賞とKintone AWARDの楯

2022年には経済産業省の「DX認定」を取得。「現在は、国内で1400社以上取得しているが、中小企業では650社ほど。北大阪商工会議所管内の企業では弊社が初めてだった。同じ時期に取得しているのがトヨタ自動車や東芝など超大手ばかり。現場がありDXと馴染みが薄そうな建築関係の中小企業で取っているのは誇れるところかな」と永谷氏は胸を張る。この年に開かれたkintone活用企業を表彰するイベント「kintoneAWARD2022」では、関西地区で優勝し、ファイナリストとして全国出場。永谷氏は、“ブルドーザー社長”として黄色いスーツで登壇した。2024年には、経済産業省の「DXセレクション優良事例企業」に選出された。永谷氏は「顧客ニーズの多様化、労働人口の減少、SE不足という現状の中で、企業が新たな人材を確保していくためには、働き方改革、健康経営、DX化の3つが不可欠。これを進めなかった会社は淘汰されていく」とDX改革の必要性を強調する。

社外にも広がるDXの輪

ミヨシテック発のDXの実践知を社外にも展開している。DX会社見学会を有料開催し、同社が構築したアプリや仕組みを公開、DXに取り組みたい企業のコンサルティングを行うほか、RPAの販売代理店も担い、中小企業におけるDXの“自走化”を支援している。「そもそも中小企業では、プログラミングの知識などを持ったIT人材を採用することが難しい。だから、非IT人材でもできるノーコードツールなどを使って、現場で運用する問題のないレベルで作っていく。目指しているのは、外部に委託して作るのではなく、自分たちの中で作ること。ほとんどの人は、こういうツールを知らないので、そんな簡単にできるんだと弊社で実体験してもらえたら嬉しい。DXが遅れている企業を支援し、日本全体をより良くしていきたい」と意気込む。

GXと生成AIへの挑戦

長年、当商工会議所、寝屋川市工業会に加盟する同社。永谷氏に今後の展望を伺うと、「B to Cとして、ショールームを拠点に地域密着でお客様と直接繋がることのできる仕事をしていきたい。そして社員が幸せになれるような会社にしたい」と語った。そして、DXの次のステージとして、GX(=グリーン・トランスフォーメーション)やESG(環境、社会、ガバナンス)を掲げ、CO2削減などに積極的に取り組む考えだ。また、生成AIの活用では、ラグ(RAG)と呼ばれる仕組みを活用し、蓄積されたナレッジからミヨシテックらしい情報発信が可能になる仕組みの構築にも力を入れていくという。「DXや健康経営、ESGなどをどんどん進めて、企業としての魅力を高めていきたい」。50年超の歴史を持つ企業が、未来を見据えてさらなる進化を続けている。

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所報2025_9月号表紙
事業所名 株式会社ミヨシテック
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大阪府寝屋川市石津元町11-22
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