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2026.04.27更新
(この記事は、会報誌『North』4月号(2026)に掲載されたものです)
国では毎年9月から10月頃になると各省庁より予算要求が行われる。それらを議会や財務省に集約後、精査され、喧々諤々の末、翌年の2月頃に次年度の予算の配分が決まり、各事業が見えてくる。今回は特に石破総理の退任、自民党総裁選、高市新総理の就任、その後はじめての概算要求予算となる。そして60年ぶりとなる通常国会冒頭での解散からの衆議院解散総選挙。急な解散に困惑する声もありながらも、高市総理の就任後は60%付近の高支持率が続く。日本を守り成長へと導く明確な姿勢としなやかで力強いリーダーシップが高評価を得ていると思われる。一方、26年続いた自公連立政権が唐突に終焉し、紆余曲折を経て自維連立政権が誕生。そして立憲民主と公明が合流し中道改革連合が発足。総選挙で国民に是非を問うた結果、高市旋風が巻き起こり、自民党が単一政党として戦後最多の316議席を獲得した。これは衆議院議員定数465の3分の2以上であり、連立を組む日本維新の会の議席を加えると352議席。非常に強力な政策推進力を得たことを意味する。自民党の主要施策がこれまで以上のスピード感で実行に移されることは基より、改憲に向けた動きも活発化するかもしれない。
令和8年度の経済産業省関連予算案は令和7年度予算よりもなんと1兆169億円増の3兆639億円に上った。昨年ついに2兆円台に乗せたかと思った矢先、たった1年で3兆円台に乗せてくるとは、丙午の勢いの高市政権の本気度が伺える。中身を見ると昨年飛躍したGX・脱炭素エネルギーもさらに積み増しされたが、最も目を見張るのが約3,873億円かけて新設される「AIロボット・フィジカルAIを見据えたマルチモーダル基盤モデル開発事業」である。従来のロボットと異なり、センサーデータ、画像、言語などの多様な情報を一度に理解し、物理的な環境に適応して動作する「フィジカルAI」の基盤モデル(VLM/VLA)の国産化を目指す。アメリカが大規模なユーザーと計算資源を持つAI市場で先行する中、日本は物理世界に摺合せする「フィジカルAI」を「勝ち筋」と位置づけ、反転攻勢を狙おうというわけだ。ひとことで言えば、ロボットや自動運転などの分野で実社会の複雑な状況に対処できるAIである。自動運転分野なら40年前のアメリカドラマ「ナイトライダー」のナイト2000に搭載されているAI「K・I・T・T(キット)」のようなイメージだろうか。
これまではウイルスや災害、近年はウクライナ、イラクを始めとした紛争や経済安全保障、歴史的な円安などの不安定要素に我々の環境は大きく揺さぶられる。ますます情勢が複雑化する中、政府はどのように舵を切っていくのか。それを俯瞰するためには、内閣府の成長戦略や今回取り上げる経済産業省関連政策を追っていく必要がある。これらの施策は事業者や消費者に直接届くものもあれば、府や市、第3セクターや日本商工会議所を通して、当所がお繋ぎできるものも多い。今回は3月号に続いて、地域経済にも関連のある令和7年度の日本政府の経済産業政策について紹介するとともに、北大阪の地域経済にはどのような影響があるのか、また、活用する余地があるのか、紐解いていきたい。
次年度予算承認プロセスの最中、毎年1月1日に時の経済産業大臣が年頭所感を発表する。その内容は現在から未来の状況を踏まえて、次年度事業を色濃く意識した中身となっている。ならばそれらを踏まえて次年度経済政策が構成されているはずだ。今月は、大臣コメントに紐づけて、今回の目玉施策であろう「新たな付加価値を生む成長投資促進のための構造改革」について確認していきたい。
「「危機管理投資・成長投資」は、高市内閣の成長戦略の肝です。強い経済を実現するため、AI・半導体や量子、バイオ、航空・宇宙、エネルギー・GXなど戦略分野を中心に、大胆な設備投資や研究開発の促進など、総合的な支援措置策を早急に検討し、官民の積極的な投資を引き出します。具体的には、AI・半導体については、今後Rapidus株式会社に対して1,000億円を出資する考えです。
こうした取組を通じて先端半導体の国内生産基盤を整備してまいります。また、AIを活用したロボットについても、新しい市場を開拓し、社会実装を進めるための取組を進めてまいります。量子についても、約1,000億円の補正予算を確保し、次世代量子コンピュータの開発を加速させ、国際競争力ある産業化を目指します。エネルギー分野では、DXやGXの進展で電力需要が増加する中で、安全性確保と地域理解を大前提として、原子力を最大限活用します。ペロブスカイト太陽電池、洋上風力、地熱等の再生可能エネルギーは、エネルギー自給率の向上に寄与するエネルギーであり、地域共生を前提として導入を進めます。
一方で、安全、景観、自然環境等の観点から、環境アセスメントの対象拡大や電気事業法の執行強化など厳格な対応を検討するとともに、2027年度以降の新たなメガソーラーへの支援は廃止を含めて検討するなど、経済産業省として適切に対応してまいります。資源調達先の多角化にも注力しつつ、国産資源開発も進めます。日本のエネルギー制約を抜本的に変えうるフュージョンエネルギーや、次世代革新炉の早期の社会実装も目指します。コンテンツ産業は、既に半導体を上回る海外売上5.8兆円を実現していますが、2033年には20兆円に拡大すべく、コンテンツ産業の海外展開を支援してまいります。「新技術立国・競争力強化」の担当大臣として、昨年末の税制改正大綱に盛り込まれた、即時償却等の大胆な投資促進税制の創設や戦略的に重要な技術領域における研究開発税制の重点強化、官公庁による新技術の調達等、日本に強みがある技術の社会実装の推進や日本の勝ち筋となる産業分野の国際競争力強化に資する取組を進めてまいります。
さらに、ディープテックスタートアップの研究開発・事業化の支援や政府による調達の拡大、地方大学発・高専発スタートアップの育成強化に取り組みます。」
GX・DX・量子・宇宙等の分野において、官民連携による成長投資を通じてイノベーションを創出し、産業の高付加価値化を集中的に推進する。
◆GX分野:水電解装置、浮体式洋上風力発電設備、ペロブスカイト太陽電池、燃料電池等の関連部素材や製造設備について、大規模な投資を補助する。GXの「分野別投資戦略」等を踏まえ、省エネ、クリーン・エネルギーの拡大、購入補助などのGX需要創出等の取組を進める。
◆DX分野:半導体サプライチェーン強靱化やAIの開発力向上に向けた研究開発支援等を行う。欧州規制対応や資源循環の観点から、サプライチェーン横断でのデータ共有を深める。また、ロボットの多種多様な活用に向けて、ロボットの頭脳に当たるソフトウェアのオープンな開発環境を整える。同時に、生成AI時代に対応したデジタル人材強化施策を強化するとともに、近年のサイバー攻撃の複雑化・巧妙化を踏まえ、高度なセキュリティ人材を育成する。
◆量子・宇宙分野:懸賞金型の研究開発プログラムも取り入れながら、量子分野や宇宙分野など優れた先端技術領域を補助する。
◆バイオ・健康・医療分野:再生・細胞・遺伝子治療分野やバイオ医薬品における研究開発・製造設備投資・人材育成を後押しする。ヘルスケア・医療機器スタートアップ等の成長環境を整えることで新たなビジネスの創出につなげるとともに、ヘルスケア(インバウンド・アウトバウンド)や医療機器の国際展開を促進する仕組みを構築する。
◆コンテンツ分野:国際的な展示会等を通じた海外展開や海賊版対策を推進し、コンテンツ産業を外貨を獲得できる基幹産業へと成長させ、クリエイターの所得向上を行う。
大学等への集中支援等を通じて、我が国の科学力の底上げを行う。海外有望研究者の招聘や多国間共同研究を通じて、イノベーション創出に向けたエコシステムを形成する。またリスキリング等を通じ、成長分野への現場専門人材やトップ人材の育成・シフトを加速する。
◆懸賞金型事業や次世代技術の調査・発掘、規格開発支援等を通じて、研究開発や産学官連携、国際標準化を加速することでイノベーションを創出する。
◆優れた技術シーズの事業化やアイデアの具体化に向けて、ディープテック・スタートアップ分野における若手人材等を発掘し育成する。
◆ヒトへの投資を徹底的に行うとともに、国際共同研究の取組を強化することで、国内研究水準の底上げを図る。
今回紹介したテーマは、前回の足元固めや目の前の事柄への対策に対して、2040年にGDP1000兆円を目指す成長戦略・構造改革として日本政府が目指す未来を見据えた肝いりの事業のオンパレードであった。その中身は「GX」「DX」「量子」「宇宙」「バイオ」「健康」「医療」「コンテンツ」「イノベーション」「ディープテック」「スタートアップ」「ヒトへの投資」etc.これから政府が見据える未来を実現するために必要な要素を育てるための主要なテーマ達だ。高度な内容も多く実感が湧きにくいかもしれない。その中の一つには当所のGX視察研修会(3月11日)にて訪問した積水ソーラーフィルム㈱を始めとした企業が取り組むペロブスカイト太陽光発電関連も含まれている。
当特集では何度も触れてきたがペロブスカイト太陽光電池とは、ペロブスカイト構造を持つ特殊な化合物を使い、特にフィルム型は軽量・薄型・柔軟な次世代太陽電池で、光を電気に変換する効率も高いのが特徴。シリコン製では難しかった建物の壁面や窓、曲面など、様々な場所への設置が可能で、我が国のカーボンニュートラル達成に向けた再生可能エネルギー拡大の切り札である。しかも日本生まれの技術、材料も日本が世界シェア30%を誇る「ヨウ素」を原料とし、夢の国産エネルギーの源泉としても期待されているだけに高市総理が何度も発信されるのも頷ける。フュージョンエネルギーに関しても同様だ。会員企業の皆様のGXに関しては省エネ補助金の申請支援で当所でもお役に立つことができるだろう。GX分野のディープテックなどは基礎研究の特許をお持ちであれば今後ニーズが高まっていくかもしれない。
超高齢化社会や人口減少、労働環境に係る法改正など今後好転を見込むことが難しそうな「人手不足」にはDX、生成AI、フィジカルAI、ロボット、量子コンピューターなどによる生産性向上によって挑む。いずれにしても多くの事業所様にとっては直接携わるというよりはこういったことが今後進んでいく、ということを見据えて、それらを活用していく準備をしていただくことが肝要だろう。時流に沿うということであって、それだけで同業他社との差がついていくのは明白だ。当所でも時流に沿った本稿やセミナー・講演会などを通して、いち早くそれら施策を皆様にお届けしご支援させていただきたい。そして北大阪地域の事業所様及び会員事業所様が他地域と少しでも差を付け、持続可能に発展されることを願いたい。
※本記事は、会報誌『North』4月号(2026)より転載しました。